どこを見るべきか
この上の絵が答えだと思います。
上の表紙の真ん中にある図は「曼荼羅」(まんだら)というもの。
そしてその中心にある「衒」とは「ひけらかし」ということです。
つまり高畑勲自身は、これを自分の知識のひけらかし、自慢だと言っているんです。
高畑作品は宮崎作品を比べて難解で、メジャー向けじゃないように言われます。
それは仕方ないんですね。
なぜなら高畑自身は明らかにそういう風には作っていません。
宮崎駿は子供向けだという事が意識的に描かれているんですけど、高畑作品はどうも純文学的なんですね。
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では、この図形のようなものは何でしょうか。
こういう絵柄・図形は、見たことがある人が多いと思いますが、これは仏教の密教で使われる「曼荼羅」(まんだら)というやつです。
作品中の曼荼羅の意味は
仏教の教えを誰でもわかりやすく教えるには限界があります。
言葉にも理論的にも難しいんですね。
だからそれを見た目で分かりやすくするようにしたものです。
つまりその教えの構造は複雑だから、図解として描いたんですね。
その真ん中には一番大切な、その教えの根本が書かれているわけです。
それが「衒」。
じゃあその意味は何かといえば、
「衒う」(てらう)
という意味。
「てらう」とは、知識をひけらかすこと。
監督の高畑勲は東大仏文のインテリです。
その中でも物凄い勉強家なんですね。
その知識がこれでもかと入れ込まれています。
見ていていくらでも味がするいい作品だと思います。
が、自分の学をひけらかしていると言ってしまえばそうかもしれません。
そもそも「曼荼羅」とはなにかというと、仏教でいう所の教えを、ビジュアルの一発で見せるための芸術ですね。
そして、この「ぽんぽこ」には
- 変化
- 陰陽
そして
「衒」
という文字が入っています。
この作品のDVDにもこれが描かれているということは、これこそが作品の中心がと言っていいでしょう。
そう考えてみて、そのほかの図柄はどういう意味なんだろうと考えると、また色んな味わいがして楽しいと思います。
「衒」とは何か
これを一回見た時に、私は真ん中の文字を「玄」だと勘違いしていました。
なぜなら両脇に描かれている「陰陽」は主に「道教」という中国の思想で使われる言葉。
簡単に言えば宇宙を作っている二元論の言葉。
玄妙な一者である「道」が二つに分かれて「陰陽」となり、それが五つに分かれて「木火土金水」となる、「陰陽五行思想」があります。
「玄」は、中国に仏教が入ってきたときに、インドの宗教を理解するときに使われた中国の教えである、上に説明した「道教」の重要な字句なので、仏教とも親和性が高いんですね。
「玄」は、「暗く、奥深いもの」という意味。
「道教」では物事の根本を「道」とし、それと同じ意味で、
- 一(いつ)
- 太乙(一)
- 玄
と、言い換えがされています。
だからそう思う人が多いと思います。
しかしそうではなく、実際には「衒う」という文字が入っている。
「化かす」というのは、
タヌキである高畑自身が、作品で化けて、自分の学をひけらかしているんだと自分自身を嘲笑しているように見えます。
タヌキは高畑自身
そもそもこの作品はどのように作られたかというと、宮崎駿が『紅の豚』で、自分自身のことを描きました。
つまり自分は「空に魅せられた豚だ」といっているんですね。
ジブリマニアの人なら知っていることだと思いますが、宮崎駿のお父さんは飛行機のプロペラを作っていた人でした。
その影響で空に飛ぶこと、飛行機が好きでしょうがないんですね。
そのことから、宮崎はパクさん(高畑のあだ名)に「自分も自分自身のことを書いたんだからパクさんも描け」という事を伝えたそうです。
そして書いたのがこの作品。
だからここに出てくるタヌキ自身が高畑勲であると考えて問題ないでしょう。
そのタヌキは何をしているかというと、
「化学」(ばけがく:作品中で狸の化かしのこと)。
それを説明される際に、曼荼羅形式の図が出ています。
作品中で、四国の三長老が舞台である東京の多摩に迎えられます。
四国、特に阿波では、タヌキは神としてあがめられてるんですね。
そういう民間宗教もしっかりと調べたうえでこれが作られているのが分かります。
そして四国の神である三者の狸ですが、
この三タヌキのモデルに関しては、ネットでは開発関係で大いに威勢をふるった政治家がモデルだと言われています。
たしかにそういう意味もあるかもしれません。
が、私にはその中の「金長狸」(きんちょうだぬき)というのが、宮崎駿にみえてしょうがありません。
その後、ネット上では有名な話ですが、妖怪大作戦として、色んな妖怪をわんさか出すわけですが、その中に宮崎作品と高畑作品のキャラが出てくるんですね。
これも右向き左向きがあって考察の余地がありそうですが、それでは長くなるのでやめにします。
つまり狸である自分と、「宮崎、お前もだぞ」といわんばかりに彼のキャラを出しています。
自分らが出したアニメーション作品が、「化かし」であるとほのめかされているのが分かります。
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