見方には種類がある
芸術の見方には種類があります。
感性だけで見ているとか、知ったかぶりだろうと思っている人が結構いますが、見方の雛型はしっかりあります。
- 歴史性
- 思想性
- 感性
それぞれを複合する見方もありますけど、基本的にはこの三つです。
歴史的な見方
歴史とは美術史上どういう立ち位置かという事。
その作品がどの作品に影響を受けて、どの作品に影響を与えたかっていう歴史の継続性を見る見方です。
これを見ることによって長い美術の歴史を感じることが出来ます。
絵のうまさや技術も見ないこともないですけど歴史的な価値の見方です。
例えば西洋美術は元々は写真のような絵を良しとしていました。
「写実主義」までは。
それ以前の絵も基本的には王朝や宗教などの権威のためのキレイな絵を良しとしていました。
古代を抜いてざっくりいうとこんな感じ。
- ギリシャ美術(哲学)
- ローマ美術(ギリシャ神話)
- キリスト教美術(聖書が読めない人のための美術)
- ビザンティン美術(これまでの総合的な美術)
- ゴシック美術(教会などに飾られる写実的な美術)
- ルネサンス美術(希・羅文明の『再生』人間や自然美)
- バロック美術(対プロテスタントのためのカトリックのドラマティックな美術)
- ロココ美術(フランス中心の官能的な美術)
- 新古典主義(ロココの軽さの反動の重厚な美術)
- ロマン主義(反新古典主義の情熱的、反社会体制の風がある)
- 写実主義(これまでに非現実を反省した現実主義)
ここまでの歴史では基本的に分かりやすい、きれいな絵の連続です。
しかし写真が出来て絵をそこまで「分かりやすさ」を求めなくなった。
そして印象派と象徴主義が生まれました。
「印象」も「象徴」も抽象的な言葉ですね。
みんなが共通して認識できるような神話や哲学では無く、多くの人にはわかりにくい個人の内面を絵にするようになりました。
【象徴主義のおすすめ】
印象派以降は
表現主義
シュルレアリスム
キュビズム
象徴表現主義
Jackson Pollock: 1912-1956: At the Limit of Painting (Basic Art 2.0)
- 作者:Emmerling, Leonhard
- 発売日: 2016/07/13
- メディア: ハードカバー
と、字だけ見ても抽象的な感じがするものが続きます。
一気に表現方法が拡がったんですね。
このように歴史の流れを見ると作品を見る時に見方が分かってきます。
思想的な見方
思想は歴史と並んで見る見方です。
美術とは何か、何を芸術とするかという見方です。
今までの流れはこうだからこれも芸術と見て蟻だろうという事。
例えばマルセル・デュシャンの「泉」
要するに男性用小便器なんですけどこれのどこがアートかっていう話で、大論争になったんです。
普通は美術でも何でもありません。
しかし
「なんでこうなんだ?」
と考える鑑賞者によって芸術になるんですね。
芸術はその作品そのものだけに価値があるのではなく、鑑賞して、何を感じるかという事とセットで芸術は完成しているんだという事に気づきます。
そう考えるとこのただの小便器も実用的なものだけの価値だけで観ることはできなくなってきます。
こういう考え方が思想的な見方です。
感性的な見方
以上の二つは知識的な見方ですが、感性的な見方は自分がいいと思うかどうかです。
自信が無い人もいるかもしれませんが、観てて楽しい、気持ちよくなるというだけでいいんです。
物自体を見て、「いいな」と思うものです。
柳宗悦が「民芸」と名付けたのは無名の工人の作になる日用雑器です。
そういう民芸品は、歴史や思想を抜きにして美しいと思えるからこそ、「いいな」と思える境地もあります。
そういう感覚ですね。
かと言って全部無くして見なくてはいけないという事でもありません。
全部無くして、本質を見るってこともやってもいいですし、ちょっと思想を踏まえながらでもいいんです。
たくさん見ていると徐々に好みが変わってきます。
これは食べ物の好みのようなもので、大人になるとだんだん苦いもの、複雑な味のするものに関心を持てるように、たくさんの絵を見ていると難しそうな絵でも良さが見えてきます。
所謂「目が肥える」みたいなことですね。
歴史や思想を知って知識を増せばそういう見方が分かってきますから、それに伴って感性が磨かれてきます。
例えばたくさん野球中継を見ている人は全く普段スポーツを見ない人と比べたら何度も見ている人のほうが楽しめるでしょう。
それは感性もそうですし、前の歴史的な見方と思想的な見方も併せてみているから楽しめます。
つまり全部は全く別物ではなりません。
だからどういう見方から見ても不正解はないので、自分が楽しめる方法で見ればいいんです。
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